私が鍼灸師になったわけ 〜 須藤隆昭

●東洋への興味

  自分の身近に鍼灸師がいたわけでもなく、小さい頃に鍼灸院のお世話になったわけでもありませんでしたし、大学での専攻は文学部地理学科でした。
20歳、ケニヤ、キリマンジャロ登山道
探検部時代(20歳)
キリマンジャロ登山の途中
また、小さい頃になりたかったのは「探検家」でした。そのせいか大学時代には「探検部」に入り、1979年に9ヶ月かけてユーラシア、アフリカ24カ国を旅しました。

  でも、これで世界観が広がり、1981年に「バングラデシュ難民調査」を企画。この時に最貧国の状態や日本人医療ボランティアの活動を知り、何となくその方面に興味を持ち始めたのです。

  卒業後、帯広の編集社に就職。ここでの月刊誌の取材で、恩師である「東方鍼灸院」の吉川正子先生と出会います。東方鍼灸院は、歯科医院のような清潔で立派な建物であり、そこで、自信と誇りにあふれて治療する吉川先生の姿を見て、今までの鍼灸院のイメージが大きく変わりました。

  編集社を辞めてからは、自由旅行が解禁されたばかりの中国へ渡り、広東・雲南・香港・台湾をめぐり、悠久たる歴史の中で、中国人の躍動するエネルギーにふれ、新しい刺激を感じます。なんとなく東洋的なものへの興味が高まってきました。

●北海道鍼灸専門学校へ

  その後、「鍼灸も面白そうだな」という軽い気持ちで、北海道鍼灸専門学校に入学。夜間制であったため、昼間は外科病院の物理療法室で、電気・温熱療法とともに、鍼灸治療の実習をさせていただきました。学校の春休みを利用して行ったフィリピン・ネグロス島では、貧しい無医村地区で鍼灸を学ぶ島民の家に泊めてもらう体験をします。「鍼灸にはいろいろな可能性がありそうだな」と実感しながらも、資格試験のための勉強で頭がいっぱいで、鍼灸の本当の「妙」にはまだ触れていません。

●中国留学からアメリカへ

  3年後、鍼灸師の国家資格を修得すると、すぐにまた中国へ。最初に台湾に渡り、「台北市中国医薬研究会・鍼灸科」で勉強を始めました。ここでは特別授業で、有名な気功師から、自分の身体が立っていられなくなるほどの、気を照射される体験をし、あらためて、気のパワーに驚かされます。

広州中医学院
広州中医学院

  その後、中国本土に渡り、広州中医学院に留学。アメリカからの留学生に混じり、勉強と付属病院での実習です。 中国独特の大胆な刺鍼技術(耳鍼・頭鍼など)や伝統医療を国家が大切にしている状況に驚き、うらやましくも思いました。

  本場の中国に留学したからといって、すぐに一人前の鍼灸師にはなれません。帰国してからは、東京の「荻窪治療室」で研修しました。ここは仙骨の矯正(オステオパシー)を得意とする院長の青山先生のほか、鍼灸師15名、柔道整復師15名の若いスタッフが揃い、鍼灸のほかにカイロ、操体、MTS等さまざまな治療法が行われ、とても活気のあるところです。わずかにふれる程度の微細な鍼や経絡治療で、次々と治していく先輩の治療を見せてもらい、また、いろいろと指導を受けました。

  中国と東京で、「鍼灸の実力」を感じましたので、今度は、ニューヨークへ渡りました。ここでは、「サロンド・トウキョウ」という、生前のジョン・レノンも通ってきていたセラピーサロンで働き始めます。マクロビオティク(玄米菜食)の店やオルタネイティブ・メディスン(代替医療)が盛んなこの街では、このサロンも他の鍼灸院も人気です。さらに自分で始めた出張の鍼灸治療も軌道に乗ってきたのですが、「鍼灸の可能性」を実感しただけに、さらに自分の技術を高めたくなり、また日本へ戻ります。

●技術を磨き、開業へ

  そして最初に感銘を受けた「東方鍼灸院」で研修させてもらうことにしました。さすがに中医理論に裏付けされた、吉川先生の鍼の技はすごいです。連日押しよせる人たちを、その場で結果をきちんとだしながら、治していきます。また独自に開発された「中国医学視力回復法」で、何千人もの子供たちの視力を回復させています。これらの技術を包み隠さず教えていただきました。知れば知るほど、「鍼の奥の深さ」を感じました。私を「使える鍼灸師」にしていただいた吉川先生にはとても感謝しています。

  さて、そうすると自分でも臨床の場を持ちたくなり、1991年、生まれ故郷の釧路市に戻り、光陽町に杏園堂鍼灸院を開設しました。その後1998年に文苑に移転し、現在に至ります。

●生まれ変わっても、鍼灸師に

  軽い気持で鍼灸学校の門をくぐってから、20年近く経ちました。何となく鍼灸師になってしまったような気もしますが、勉強すればするほど、臨床を重ねれば重ねるほど、鍼灸の面白さ、人間の回復力の素晴らしさに惹きこまれます。今では鍼灸が天職のような気がしますし、生まれ変わっても鍼灸師になりたいと思っています。

  機械を直すようにいかないのが、人体の神秘です。流れるべきものがきちんと流れ、あるべきものがある場所に落ち着くと、身体はどんどん治癒へと向かいます。まさに「循環とバランス」の妙です。免疫力や自然治癒力と言ってしまうだけでなく、もっと偉大な力、天地の気(宇宙エネルギー)や、内なる霊性(神)が働くようにも思います。

  「何故、人は治るのか?」という謎を考えるととてもワクワクします。鍼灸という奥の深い世界のむこうには、さらに大きな世界が広がっているようです。

  私はそれを「探検」していきたいと思っています。



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