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2005年10月16日 釧路市コアかがやき
私が考えるには鍼灸医療とは、暮らしのなかで患者自身が自分の健康を把握し、それを鍼灸師が支援していくという関係がベストであろう。この関係が今後広がっていくことが理想的であり、浸透することによって社会を明るく楽しく心豊かにすると考える。このような可能性を持っていることが全国の鍼灸師を訪ねてみたいと私を駆り立て、また私が鍼灸を愛する大きな理由であります。
●風邪にかかったらどうしますか?
皆さんは風邪をひくと・・・まず医師のところに行き、そして薬をもらいます。ところがそこでもらう薬は風邪薬ではないのです。風邪薬として飲んでいるものは、風邪症状そのものに効く薬ではなく鎮痛薬・咳止め・解熱剤・消炎症剤など対症クスリです。
多くの現代医学の薬はその場の症状を止める薬であって、根本から治す薬ではないのです。近年の医療現場ではどんな患者にも抗生物質を処方してきた経緯があり、結果ウィルス自体が抗生物質に負けない強いものになってきています。
それでも徐々に経過が良好に向かうことを考えてみると、これは処方されたクスリが効いたのではなく、体がそれらを飲んで全身症状が去るのを待っていたことを意味します。要するにウィルスに対抗する自然治癒力の発動を待っていたのです。
以上のことから風邪が治るのは、クスリのよる対処療法が効いたというより、自然治癒力が上手に働いたと考えられます。
●病気の症状は自然治癒力の発露
風邪など病気でみられる症状は様々ですが、一様に起こる症状は炎症や発熱・血圧の変化などです。実はこれらは体に備わった自然治癒力の反応であります。体温は上昇し、体液や血液量はどんどん増していき、ウィルスや雑菌に対抗しようと体が頑張っている状況であり、証拠でもあります。ですから体が治るということは、治癒反応を抑えるのではなく、自ら促進して反応を解消していけばおのずとよい方向に向かうのです。しかし現代医学ではその点はないがしろにされ、風邪などにみられるように対処療法が施されます。
確かに風邪などという短期決戦の病気の場合には、治癒反応を一時止めてもウィルスが消滅すれば風邪症状は治まるかもしれないが、慢性疾患の場合は治癒反応を止め続けても病気そのものは治らないのです。これが、現代医学が慢性病を治せない大きな理由であり、逆に自然治癒力を後押しする鍼灸などが対応できる理由であります。
●鍼灸は自然治癒力の応援団
そこで鍼灸がいかに自然治癒力を引き出しているかを説明するには、風邪はもってこいの病気です。たった一本の鍼を刺すだけで、気血(現代医学では理解に苦しむところ)というエネルギーを流れを良くし、血液の流れをスムーズにし、体温を上昇させて、体の治癒反応を促進しながら風邪を根本から治していく。
この他、足湯や首周辺への温灸、ショウガ湯、あったかいうどんなどほんのひと昔前皆さんの家庭で行っていたケアを併用すると効果いっそう高まります。
そして風邪が良くなれば・・・それにならって他の全身性の病気も良くなっていく。こんなすばらしい効果を鍼灸は持っているのです。
●風邪の治り方には違いがある
ところが、実際風邪にかかっても薬で治ったよという声はよく耳にします。しかしよく考えてみてください。再び風邪にかかりませんでしたか、予後はスッキリしていましたか、そして薬で根本から風邪は治りましたか?
先ほども言ったように現代クスリで治っただろう風邪は、予後は体が冷えたり、気分が鬱であったり、なにより元気を取り戻してはいないはずです。対処療法を念頭に考えているクスリを飲んで回復したならば、当然の結果です。
その点鍼灸をはじめとする漢方医療で治った風邪は、予後が決定的に違います。風邪を引く前よりも健康感が高まっていることが往々にして感じられます。自然治癒力が備わっていることにより、回復はもちろんことより元気を取り戻すことが可能なのです。
よって風邪はうまく治せば、健康増進をもたらしてくれるのであります。 ちなみに鍼灸師は自分の風邪などはあっという間に治すことができます。
●鍼灸は全身の調和を整えて治す
漢方的な観点から考えると、病気とはある部分だけの異常・異変ではなく、心と身体全体の不調和の反映だといえます。言い方を変えれば、このまま今の生活スタイルを続けていると身体(生体)が破綻し、ゆくゆくは死に至るという警告なのであり、生活を変え生きなおさなくてはいう身体の信号なのです。ですから先に話したように、体温上昇・血液量の増加・炎症・発熱などは身体がある意味正直に反応しているものであり、それをその場しのぎで押さえ込むことはかえってマイナスです。それよりも自然治癒力を高めたり、生活を改めたり、心をリフレッシュするほうが大いに重要であります。
本来の治癒とは、症状が取れることだけでなく、生活全体のバランスが回復し、身体のあらゆる部分の内部秩序(細胞単位)が再活性化し、普段の社会生活においても生き生きすることであります。
これが本来あるべき姿です。やはりこの点においても、大きな視点から病気を診る鍼灸は全身の不調和を調整するので、本当の治癒をもたらしてくれるのです。
●鍼灸はツボ療法ではない
一般にイメージされている鍼灸とは、ツボに鍼やお灸を施して治すと思われています。間違ってはいませんが、ツボ療法(ある部分のみに鍼・お灸をする治療)と思われがちである鍼灸は、本来私が考える鍼灸とは違います。
鍼灸の療法を順序立てて簡単に説明すると、まず様々な診断法によって病因と病態の二側面を把握します。診断法は基本的には四診法(身体を見る、身体に聞く、患者に尋ねる、身体に触れる)を用いますが、鍼灸師自身によって多少違いがあります。そこで明らかになった"証”(東洋医学的には病気の本質をさします)をもとに、いま患者のあらわす症候群の中からどんな治療法を行えばよいかを決定します。そこで始めて鍼・灸を用い、経絡とツボを運用させて気血をスムーズにさせます。その結果身体を治癒に導くというものです。
鍼灸は日本独自の確立された感がありますが、やはり総合的に考えても古代中国に淵源を持っていると言えるでしょう。このように患者を良くしようとする漢方医学と、患者に対する最初のアプローチから違うように病気を治そうとする現代医学とは大きな差異があります。これはもう西洋医学と並ぶべき、もうひとつの大きな医療であると言えます。
●鍼灸は鎮痛剤ではない
先の説明でお分かりのとおり漢方医学は身体全体を見て治癒に向かいますが、なぜ鍼灸で局所の痛みが治まるかを説明します。
鍼・灸をすることにより痛覚信号は脊髄を通って脳内(視床下部)にいき、そこでモルヒネ様物質(アミノ酸)が分泌され生理的に痛みをコントロールするというものです。局所の組織損傷による生体防御機転の反応や筋緊張を緩和、血液循環が改善するなど、副交感神経を活性化させ次いでリンパ球を増やし、免疫力アップさせます。治癒反応として症状を頭から押さえ込むのではなく、逆に治癒反応を利用・促進して症状を消滅に向かわせるというもので、鎮痛のみを目的したものとは大きく違います。この考えは近年発表された安保徹新潟大学教授の理論として大いに注目されています。
このように考えると、鍼灸は自然治癒力を活性化して治癒をもたらすあらゆる病気に効果があり、「未病」治療も可能であると言えます。
全世界に数十万いるといわれる鍼灸治療家。1971年のニクソン大統領訪中をきっかけに世界的に鍼灸への関心が高まり、80年代のアメリカの代替医療運動、90年代のアメリカ国立衛生研究所の設置など鍼灸に対する機運は確実に広がりをみせています。このようなグローバリゼーションが進むなか、われわれ鍼灸師はいち町の鍼灸師さんではなくアジアの中の日本の鍼灸ということを念頭に世界に向けて発信していくことが今後大いに重要になってきます。
今回は「風邪」をテーマにお話しましたが、こんな現状も事実あります。 風邪にかかっても鍼灸師のところへ行く方は多くない昨今。しかし日本にいる一般の鍼灸師は風邪に対する思想と技を持っているのだが、まだまだそうは思われていない。
鍼灸は運動疾患専門ととらえられ、足を運ぶことはまず少ない。鍼灸師自身でさえそう思っていて、風邪でキャンセルの電話があっても「仕方ないから病院行って良くなってきてから来てください」と言うようなのが
現状です。
これからの鍼灸師は医師と対等に語り合える医療知識とともに、鍼灸師としての誇り・アイデンティテーの確立が重要であります。そのためには、鍼灸医学の医療・文化の独自性への認識が必要不可欠であり、私は今回多くの鍼灸現場を見てきた経験をもとに大いに貢献したいと思っております。
(文責 久保大輔)
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