「同経遠位穴による視力回復の効果」

2000年(社)全日本鍼灸学会神戸大会発表

《はじめに》

 近年、テレビゲームの普及にともなって学童児の視力低下 が年々進んでいて、小学生では4人にひとり、中学生では半数が1.0未満の 正常視力以下となってきている。
学会発表 視力回復に関しては、眼科医のなかでも、それを可能とみる医師と不可能と みる医師に意見がわかれているが、一般的には近視を治療対象外として、 すぐにメガネ・コンタクトをすすめる所が多い。あるいは、散瞳剤を使う こともあるが、アトロピン等の散瞳剤のなかには眼圧上昇や毛様体筋萎縮を 起こす危険もあることが報告されている。このような中で、薬物療法のように 副作用がない鍼灸治療はさらに注目されていい治療法である。
さて今まで、鍼灸治療によって視力が回復した例がいくつか報告されている。 その多くが目の周囲のツボを中心として使用したものであった。今回は目の 周囲のツボは使用せずに、視力の回復の可能性について考えてみることにした。

《目的》

 吉川正子(北海道)は96年のニューヨーク鍼灸学会に おいて、「弁証論治の応用による眼科治療の標準化作業」と題し、 1000眼の視力回復例について報告(平均で0.36の視力向上を認めた)して いるが、その中で目の周囲のツボの同経遠位穴の有用性についても 述べられていた。今回はそれを一部追試する形で、同じように自己の臨床の 中から、400人・780眼の視力回復について分析し、その効果の検討を 試みた。

《方法》

 対象は1991年から2000年4月までの9年間で、 視力回復を目的に当院に治療にきて、10回の治療をしたすべての400人 (男174名、女226名。4歳から76歳、平均年齢は19.7歳)。 対象眼は0.01から0.9の視力範囲で正常視力以下とした。そのため 対象眼は780眼とした。
新和精工製電光投影式視力検査機SK-8Aを使用し、治療前後に視力を測定した。 屈折度測定はしていないので、近視の程度は不明であることを明らかにして おく。なお、近視の程度は、-3D以下を軽度近視(視力0.1前後)、 -3Dから-6Dを中等度近視(視力0.04から0.1前後)、-6D以上 を高度近視(視力0.04未満)と分類されている。それに照らし合わせると 今回の対象者は、軽度近視572眼・73%、中等度近視119眼・15%、 高度近視89眼・12%の割合であった。
また臨床上の区分になりやすい分類として、0.1未満が212眼で27%、 0.1から0.4が476眼で61%、0.5から0.9が92眼で12% となっている。
治療は目の周囲の圧痛点を捜し、その同じ経絡上の反応点に刺鍼。さらに 全体療法も重要なので、腹部と背部の圧痛も調べ、治療点に刺鍼し、圧痛を 取り除く。目は肝と関係が深いので、肝経は特に注意してみる。
鍼はセイリン社製40ミリ・16号鍼(1寸3分−1番)を使用。横刺で 浅刺。20分間の置鍼。
また補助的に耳穴圧迫法(目1、目2、眼点、神門に王不留行の種を貼る)、 温灸治療(腹部の反応点に15分)をし、さらに目の体操を1日3回するよう に指導。一週間に2回から4回の間隔で治療し、10回の治療を1クールと する。視力は必ず治療前後に測定し経過を観察した。

《結果》

 1クール後の視力は、
変化なし 46例 6% (無効)
0.1向上 135例 17% (微効)
0.2〜0.4向上 481例 62% (有効)
0.5以上向上 118例 15% (著効)
有効と著効を合わせると77%。平均では0.28の回復。
また、治療前と治療後の視力変化をt検定をして、統計処理すると、有意水準 0.5%で、治療開始時視力0.22から治療終了時視力0.44に、平均で 0.22の視力向上を認めた。

《考察》

 この結果により、吉川の報告にあった弁証論治を基本にして 遠位穴を使用した治療法には、視力の回復に一定の効果があることが、 確認できたと思う。

目の周囲に刺鍼するのは、顔面内出血の危険性があり、またなんとなく恐怖感 を与えるものだが、遠位穴を使用した場合にはそれがないので、小さな子供 にも抵抗なく治療ができるという利点がある。
また治療後の視力は、家庭での目の体操とローラー鍼でのツボ刺激を継続する ことによって、半年から8年ぐらいにわたり維持されていることが多い。

(一部抜粋。この論文の無断転載を禁じます)

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