「アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の一症例」

2002年(社)全日本鍼灸学会筑波大会発表

今回の症例です。15歳(高校1年生)男性、家族歴では兄にアトピー性皮膚炎があります。
幼児期から発症。近医にてステロイド外用療法を受けて落ち着いていたが、だんだんステロイドが効かなくなり悪化して、平成11年春から紅皮症状態で松田皮膚科を受診しました。
減ステロイド療法に白虎加人参湯、猪苓湯などの漢方薬治療を併用して様子を見ていましたが、高校受験が終わり、1年生夏休みを利用して脱ステロイドを試みました。リバウンドでの紅皮症状態の悪化がすすみ、平成12年8月1日松田皮膚科より副交感神経刺激を依頼され、鍼灸治療を開始しました。

東洋医学的診断・脈は弦、六部定位では肝虚。舌質は紅。腹診では右期肋部に圧痛がありました。その他には、眠りが浅く、イライラ感、下半身の強い冷え、肩こりもありました。以上のことから、肝腎の陰が不足し肝陽が亢進した証であると判断しました。

ストレスなどがかかり交感神経が緊張で悪化しているようなので、心身の緊張を取りリラックス状態を作り、副交感神経を優位な状態にすることを目的としました。

治療穴は
大衝、足三里、光明、合谷、列欠、内関、肝兪、肺兪、腎兪
など。
セイリン製40ミリ、16号の鍼を使用。横刺で浅刺20分の置鍼。この治療を最初は1週間に2から3回、2ヶ月後からは1週間に1度の間隔で続けました。

結果はしばらくは症状にあまり変化はありませんでしたが、4週間後によく眠れるようになり、イライラ感も減りました。そして2ヵ月後には皮疹は著明に改善しています。その後、修学旅行や試験で一時悪化したときもありますが、現在も良好な状態を維持しています。表情も明るくなり、趣味のストリートダンスを楽しむようになりました。

以下考察になります。

白血球の変化
  7月22日 9月 6日
白血球数 9660 6300
顆粒球 72.6% 59.4%
リンパ球 13.5% 24.3%
絶対数 1304 1512

  血液中の白血球は通常1立方ミリメートル中に5000から8000個あり、このうち顆粒球は60%、リンパ球は35%で残りの5%がマクロファージとなります。顆粒球の数は3600から4000で、リンパ球は1800から2000ぐらいとなります。
  新潟大学の安保教授は顆粒球は交感神経支配を、リンパ球は副交感神経支配を受け、自律神経の調節を受けているとしています。つまり60対35に比べて、顆粒球の割合が多いと交感神経優位状態であり、リンパ球が多くなると副交感神経優位の状態となります。
  症例の場合はごらんのように症状が改善されるのと同じくして、顆粒球、リンパ球の割合が正常になってきています。新旧治療の後に顆粒球が減り、リンパ球が増えたことは、鍼灸治療が副交感神経を刺激できたと考えられます。

そして、ステロイドとアトピー性皮膚炎の関係では、ステロイドホルモンは代謝されて酸化コレステロールという炎症を起こす物質に変わります。炎症が起きると、交感神経が緊張状態となり、アドレナリン放出によって、さらに顆粒球系炎症を引き起こします。その顆粒球が大量の活性酸素を放出し、組織破壊を引き起こすとしています。したがって交感神経を緊張させずに、逆に副交感神経を刺激することにより、顆粒球の暴走にブレーキをかけ、リンパ球を増やし、炎症を起こしにくい状態をつくることが出来ます。先に述べましたように鍼灸治療は副交感神経を刺激すると考えられました。つまりこのような作用機序により、鍼灸がアトピー性皮膚炎の改善に効果があったと考察されました。

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