「はりきゅうで元気―東洋医学探訪」

2001年(社)全日本鍼灸学会大阪大会

◎探検部魂で目の治療に挑戦 高齢者でも改善の可能性

 鍼灸(しんきゅう)師には、人生経験が深く、話題豊富な人が多い。 話し込むと、いつの間にかテーマが鍼灸から地球環境や日本人論に移っている。 そんな人は、臨床家としても意欲的だ。 北海道釧路市の須藤隆昭さんもその一人。
 須藤さんは、学生時代、京都の立命館大の探検部員だった。 バングラデシュ難民救援隊の隊長もした。世界三十カ国を放浪し、 生き方を模索した末に、鍼灸医学の道に入った。 釧路に杏園堂鍼灸院を開いた後も、中国、台湾、ベトナム、 ニューヨーク、ネパールなどを訪れ、腕を磨き、講師を務めたりしている。

 六月、大阪市で開かれた全日本鍼灸学会学術大会の口頭発表者の 席に須藤さんはいた。昨年の神戸大会から、「はりで視力が回復できる」 という報告をしている。今回はその第二報だ。
 「1991年から2000年までの9年間に視力回復を目的に治療した 患者さん四百人を調べた。若干の無効例はあるが、小学生以下、中高生、 成人、高齢者のどの年齢層でも、平均0.15から0.25の視力の回復を示し、 年齢による差はなかった」
 眼科学界では、長く低下した視力は回復しないとし、 眼鏡を掛けさせる処置を採ってきた。近年になり、回復説に賛同する 医師も出てきている。しかし、年を取れば、回復もあまり期待できない というのが普通の認識だ。須藤さんの報告は、この常識に反して、 高齢者でも若者同様、視力改善の可能性があるというものだった。

 須藤さんの鍼灸院の玄関には「中国医学 視力回復教室」の掲示が 出ている。一般に鍼灸の目の治療では、目の周りのツボにはりをする。 須藤さんは、お師匠さんである帯広の鍼灸師、吉川正子さんの教えに従い、 それを避けている。目の周りのツボが所属する経絡を知り、 その延長の手足のツボにはりをする。難しく言うと「同経遠位穴」を使った 治療だ。
 「ツボは経絡で患部とつながっているので、離れた所にはりをしても 効くというのが鍼灸の考え方です。それに、目の周りに刺すと内出血したり、 子どもたちが怖がることもある。遠位穴だと抵抗感なく治療できるのも 利点です」

 400人の治療で、15%が0.5以上、62%が0.2から0.4、17%が0.1の 視力向上を示した。無効の人は6%だった。どの患者さんにも、 自宅で目の周辺のマッサージなどをしてもらっている。 はりだけが効いたとは言えないかもしれない。 だが、この眼科領域への挑戦には、須藤さんの胸に今も宿る 探検部魂が感じられる。
(共同通信編集委員 松田博公)(了)

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