友人とタチ鍋を食べた。鱈の季節だ。
道東は冬をむかえ、朝の空気は白んで深く息をする気になれない。
長い冬が続く。少しうんざりし、冬眠でもしたくなる。
1月の日差しは強く、−27度無風快晴の朝など、絶好のスシュー日和になる。
その頃には、私の身体は凍る空気にも慣れていて、澄んだ青空と樹氷や霧氷で眩しい、
真っ白な世界を楽しむようになる。
それまでをどう過ごそうか…読書だ。
暖かい家の中で、或いは、布団の中で。固まった身体でも手と眼は動く。
『北京から来た男』ヘニング・マンケル著/東京創元社、
スウェーデンの推理小説を読んだ。北欧の推理小説は推理というより、
ある物語として読める。社会制度や宗教、文化を背景に登場する人びとの日常が描かれていて、
その感覚が何となく東洋的でもある。翻訳者の柳沢由美子もいい。
この小説は、スウェーデンのある村で多くの人が惨殺され、女性裁判官が、
その村との個人的な繋がりを知ったことから始まる。
1800年代の北欧(スウェーデン)、中国、アメリカ、現代のアフリカに触れながら、
現在に至るまでの“経済の発展”という、世界の歴史に生きる人びとのありようへと展開していく。
日本はそんな国々と昔も今もどう関わっているのかいろいろ考え、
学んだ私の一冊だった。
北欧(スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、デンマーク…)の物語には、
冬の殺伐とした湿地、凍った湖、湖に穴をあけて魚を釣り、鳥が上空を飛行して、
車を運転していると飛び出してくる鹿やキツネ、タヌキなどの野生動物との衝突が描かれている。
そして、そこに登場する人びとは、鱈とじゃが芋と黒パンを食べる。よく食べる。殆ど毎日のように食べる。
私は読み疲れて窓の外に目をやる。初冬の自分の生活を思う。
お昼は黒パンだった。夜には蒸した鱈とじゃが芋がいいな…
昨日の小春日和の散歩は、湖岸で渡り鳥を観たし、湖の表面は薄氷になっていた。
わかさぎ釣りもある…私が住んでいる地域は釧路湿原だ。
が、しかし、ここは北欧じゃないか?
自然の形態が似ていると自ずと食生活も似ているのだな…へええ。
そうか、私は北欧に暮らしているんだ〜。
友人とタチ鍋を食べに行く途中の夕方、
ヘラ鹿といってもよいくらいの立派な雄鹿が、路肩から目の前に現れた。
車を停めて深く呼吸をして、無事友人宅に着いた。
北欧気分は続く。ふう。
塘路在住 田中和江
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